お疲れサーマント

黄巾族さん向けに書いています

夜に明かり

 有史以前からロマン派

 

[貼るべき画像がありゃあせん]

 たまたま一緒にお酒の場に居合わせたおとなしそうな学生と、たまたま意気投合をして中身のないような会話が盛り上がった。

 

その時は丁度私の中に嫌な気持ちがいっぱいであったからか、旅先で日本人に会ったときと似た昂る感情であったことを覚えている。

 

会話の内容で唯一憶えているのは「不眠症」についての話だった。

 

彼女は寝る直前静まった環境や、シャワーを浴びている瞬間が怖くて夜が眠れなくなると聞かせてくれた。

 

将来への漠然な不安が多くを占めていた。

 

私にも心が手持無沙汰になる瞬間の恐怖には覚えがあった。

 

しかし、私の中のそれは解決が出来ないと割り切ったものでもあったからそれを彼女に伝えるのは少々躊躇われた。

 

その時私の考えていたことは大体こんなかんじであったと思う、

この場合の恐怖は突き詰めて死への恐怖である。

 根源的な死への恐怖ではあるが、ある程度の幸福に裏打ちされたものである。

退屈と隣り合わせに位置した生存本能の退廃である。

穿った見方をすると、お手軽な娯楽に身を投じる理由でもある。

 

彼女の身なりは整ったものであったし髪の毛には艶があったから、やはり幸福な人間の一人であるように思われた。

 

こういう悩みと無縁になるには、日々の糧を得るにも苦労をすればよいのだ!と思ってはいるが、私自身が資本主義社会を捨てられないのと同じくらい社会の目からこういう考えは詭弁であることを承知している。

 

社会の志向とはズレた考えを社会全体に発信するひとを私はどうかしていると思うけれど、友人にさえ打ち明けられないのであればそれはもう死ぬまで秘すべき思想である。

 

それを人生の軸とするか、社会に同化して死ぬかはこれからじっくり考えていけばよいが、筋を通せないのであれば生きている意味が無いと自戒するくらいには頑固に生まれついた。

 

彼女の悩みとは関係のない話だ。

 

とにかく、今は筋を通す勇気などは持ち合わせていなかったし、彼女はそれ相応に真剣に悩んでいるように見えた。

 

私は出来るだけ迂遠に、優しい言葉で私の考えを伝えようと試みた。

 

夜寝るときは完全に電気を消して、窓を向いて寝ると良い。

カーテンを開けて星のことを思うと羊の時よりもずっと深いところに自分が行くだろう。

星と地球との距離はうんと離れていて、何百年もかけてやってきた光を我々はようやく見ている。

その道のりを思うだけで、なんだか落ち着いてくるだろう。

悩みだってちっぽけなものに思えるかもしれない。

 

彼女は神妙な顔で空を一瞥した後、私に向き直った。

 

そして何か思いを巡らせた後、なんか・・・ロマンチックですね、と笑った。

 

 

私にはいまだに彼女が笑った気持ちの底が分からないが、私の言動については取り消したい気持ちが強い。

 

今では星の旅に思いを馳せると、彼女との会話が思い出されて発狂寸前、もしくは発狂して枕に頭を打ち付ける奇行に走るようになってしまった。

 

あまりの恥ずかしさにのたうち回り、二度と星を見上げて寝られなくなってしまった。

 

これを一般に黒歴史という。

 

今日は月が黄金に輝いていて、星も相変わらず何百年前かの光を放っている。